時効援用はいつからできる?借金の種類による3つのパターンを紹介します。
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こんにちは。

これまで5032件の借金問題を解決してきた、ひまわり司法書士法人の本松です。

時効援用はいつからできるのか?時効の期間は5年だったり10年だったり頭の中でごちゃまぜになりますよね?債権者や借入目的によって時効期間が異なります。さらに債務名義があると時効が延びてしまいます。

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ちょっと複雑なのできちんと整理をして、時効援用の起算点を考えていかなければなりません。相談者に即答できるように知識を蓄えておきましょう。

そこで今回は、時効援用がいつからできるのか、3つのパターン別に述べていきます。相談者の前で恥ずかしい思いをしないように、しっかり頭に入れておきましょう!

時効援用とは?

借金にも消滅時効があります。

時効まで借金を放置していたら、返済義務がなくなるわけではありませんよね?時効援用という手続きをとることになります。実務では、後で証拠が残るように配達証明付きの内容証明郵便を送る方法が一般的です。それでは時効援用はいつからできるのでしょうか?

借金の消滅時効が完成した後で行う時効援用ですが、借金の時効は借金の種類によって異なります。

消滅時効期間の原則は10年

民法の原則では、借金の消滅時効は10年となります。

しかし、債権者・債務者のいずれかが会社であったり、事業目的での借入には、商法が適用され5年となります。ビジネスでは、迅速な取引が求められるからです。しかし例外もあり、金融機関の借入であっても時効が10年になるケースもあります。

時効援用はいつから?その1  債権者が民間の金融会社の場合

それでは時効援用はいつからできるのでしょうか?ケース別に記載していきます。

銀行・債権回収会社が債権者の場合

商法が適用されると、返済期日または最後の支払日から5年が経過していれば、時効援用をすることができます。銀行や債権回収会社は商売として業務を行っているので、商法第522条が適用されて時効期間5年が原則です。

(商事消滅時効)
第五百二十二条 商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。

引用元:商法第522条(改正前)

カード会社・消費者金融が債権者の場合

カード会社・消費者金融が債権者となっている借金の消滅時効期間も、商法第522条の適用となり5年です。なお、消滅時効期間の起算点はリボ払い・分割払いの場合、期限の利益喪失日(分割金の支払いを怠って一括請求に切り替わった日)です。

銀行・カード会社は営利目的の一般企業なので、商法が適用されます。

時効期間の計算例

例えば消費者金融へ返済をせずに、期限の利益を2020年9月30日に喪失した場合、時効援用はいつからできるのでしょうか?

初日不算入の原則に従い、初日はカウントしませんから、消滅時効は2020年10月1日からスタートし、2025年9月30日の終了時に完成します。そのため、その翌日の2025年10月1日から時効援用が可能となります。

【注意】代位弁済と債権譲渡の場合

債務者に督促する債権者が、当初の債権者から変更になる場合がありますよね。代表的なのが、途中で代位弁済債権譲渡があった場合です。でもこの2つでは消滅時効期間の計算が異なりますので、注意が必要です。2つで決定的に異なるのは時効計算の起算日です。

よく確認して間違えないようにしてくださいね。

求償債権は代位弁済(保証履行)日が起算点

銀行のカードローンの場合、ほぼ確実に契約時に保証会社が入っています。借主が支払を怠った場合(概ね2カ月延滞が基準になっているところが多いです)、保証会社が借主に代わって銀行に弁済行います。これが代位弁済です。保証会社が代位弁済をした場合、借主に対して求償債権を取得し銀行に代わって債権者となります。

この場合、消滅時効は代位弁済の日からスタートし、5年経過すれば、時効援用ができますなお、保証協会の場合は、一般企業ではないため商法が適用されません。そのため時効期間は10年となります。詳しくは後述します。)。

なお、返済が滞っているのに銀行が保証会社に代位弁済を求めずそのままになっているということは考えられません。そのため銀行カードローンで債権者が銀行のまま時効援用するという案件は、まず有り得ないと思います。代位弁済後の保証会社に対して時効援用をすることになるでしょう。

債権譲渡があった場合の起算点は当初取引をそのまま引き継ぐ

債権譲渡があった場合は、債権譲渡前の原契約に基づく当初取引の期限の利益喪失日から5年以上経過していると、時効援用をすることができます。債権譲渡は当初債権者(譲渡人)の立場を、譲渡後債権者(譲受人)がそのまま引き継ぐ効果があるからです。

そのため、債権譲渡があっても消滅時効の計算は当初と変わりません。

時効援用はいつからできる?その2 信用金庫や政府系金融機関が債権者の場合

信用金庫や政府系金融機関(日本政策金融公庫、住宅金融支援機構)から住宅ローンや借入をおこなった場合、時効期間は10年になります。

もともと、ビジネスを目的として設立されていないため商法が適用とならず、民法の原則に従います。

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私の個人的な意見としては、政策金融公庫や住宅金融支援機構はともかく、信用金庫がこのカテゴリーに入るのはおかしくない?と思います。判例(最高裁昭和63年10月18日判決)があるのでしょうがないんですけどね。

なお、同様に保証協会の債権も時効期間は10年です。保証協会は求償権に基づいて請求していますから、起算点は代位弁済日であることに注意しましょう。

ただ、借入に商事性が認められる場合は、消滅時効5年が適用されます。たとえば、個人事業主が、事業資金として信用金庫や公庫から借入をおこなった場合です。

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なお信用組合、労働金庫、農協、漁協も信用金庫と同じく時効期間は10年です。

時効援用はいつからできる? その3 裁判上の請求があった場合

時効が援用できるだろうと思って調査をしても、債務名義(確定判決等)を取得されていて消滅時効が完成していないことがあります。

裁判の確定から10年

もっとも多いのが、債権者が確定判決や仮執行宣言付き支払督促の債務名義をもっていることです。

この場合、訴状の提出、支払督促の申立のときに時効が中断し、判決が確定したときから、借金の時効が10年延びます。裁判上の調停・和解は成立日から10年です

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もともと5年であった商事債権も10年になってしまうので、注意が必要です。

仮に消滅時効直前の4年11ヵ月で裁判上の請求をされたとしても、判決が確定すると、時効期間は確定日から10年となるため、時効期間が約10年も延びてしまいます。

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時効援用の相談の際には、裁判所から訴状や支払督促が届きましたか? と確認は必ず行うようにしましょう。「ここ10年で裁判所から書類が届いたことはありません。」と答える相談者が多いのですが、債務者に覚えがなくても、実は提訴されていて、とっくに判決が確定していることも珍しくありません。

(判決で確定した権利の消滅時効)
第百六十九条 確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、十年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は、十年とする。
引用元:民法第169条1項

催告があると時効期間が6ヵ月延びる

また債権者から催告をされると、暫定的に6ヵ月時効期間が延びます。この場合は、催告から6ヵ月以内に裁判上の請求をされると、時効が中断します。

(催告による時効の完成猶予)
第百五十条 催告があったときは、その時から六箇月を経過するまでの間は、時効は、完成しない。
引用元:民法第150条

債権者が時効期間をきちんと認識していて、催告後6ヵ月以内に訴訟や支払督促をされる可能性があり、時効が延びてしまうかもしれません。

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しかし消費者金融や債権回収会社などの債権者が催告の手続きをとることは実務上ほとんどありません。わざわざ6ヵ月の延長をしなくてもその前に訴訟手続きを行えば時効は中断します。そのため時効完成間際に支払督促の手続きに入ることが多いです。

注意! 個人再生による再生債権の時効期間は5年!

個人再生による再生債権は5年間で消滅時効が完成します。個人再生においては債権が実体的に確定するわけではないので、判決等と異なり10年の消滅時効期間は適用されません。

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この点を勘違いしている司法書士が多いと思いますので、注意しましょう。なお再生債権は債務名義ではないので、弁済が滞ったとしても別途訴訟等を経ない限り、強制執行はできません。この点も併せて覚えておきましょう。

【おまけ】民法改正後の時効期間はどうなるの?

2020年4月1日より改正民法が施行されました。

改正後は、債権の種類にかかわらず、消滅時効は以下のいずれか早い時点の到来で完成します。なお、商事消滅時効(5年)は削除され、民法の規定に統一されました。

  • 権利を行使できることを知ったときから5年(主観的起算点)
  • 権利を行使できるときから10年(客観的起算点)

(債権等の消滅時効)
第百六十六条 債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
引用元:改正民法第166条第1項

相手が金融会社の場合、1号の「権利を行使できることを知ったときから5年」が適用されますので(相手は金融のプロです。「権利を行使できるなんて知らなかった」という言い訳は通じないですよね。)、事実上、すべて5年になると考えていいでしょう。

なお、適用されるのは「2020年4月1日以降に契約した取引」です。それ以前に契約した貸金契約等には適用されず、引き続き旧法適用になりますので、注意してください。

まとめ

以上、今回は、時効援用はいつからできるか、3つのパターンについて書きました。

時効援用はいつからできるのか
  1. 民間の金融会社の場合 5年
  2. 政府系金融機関、信用金庫、保証協会などの場合 10年
  3. 裁判上の請求があった場合 10年

時効が完成しているかどうかの確認には、まず債権者から送られてきた取引履歴で最終取引日等を確認し時効期間の計算をします。その後、時効中断事由についてこちらから債権者へ問い合わせをします。特に債務名義の有無についてはしっかりと確認しましょう。

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起算点にも注意してください。特に間違えやすいのが債権の種類が求償権の場合。代位弁済日が起算点になりますので、覚えておきましょう。

相談者は、不安な日々を過ごし、決心をして相談にきています。安心してもらえるように、基本的なことは覚えて、混乱しないようにしましょう。

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