
こんにちは。
これまで5032件の借金問題を解決してきた、ひまわり司法書士法人の本松です。
今回は、実際に私が担当した依頼者の事例を通して、
破産案件になるかどうかは債務額の問題じゃない。破産を申立てる理由付けが大切。
ということを伝えていきます。
「いやいや、債務額次第でしょ?」という意見もあると思います。しかし、この記事を読んでいただき、いかに破産申立てにおける理由付けが大切かについて、学んでいただきたいと思います。
今回は、63歳の主婦の方。会社員のご主人と2人暮らしで、本人はパートで月10万円くらいの収入がある主婦の方です。夫婦2人で相談に来ました。
債務額がわずか108万円しかなかったのですが、自己破産を受任しました。しかも管財事件です。
1080万円でも180万円でもありません。わずか108万円です。
この事例を使って、破産案件になるかどうかは債務額の問題ではなく破産を申立てる理由付けが大切、ということについてお話をしていきます。
今回の事例紹介
それでは、今回の事例を紹介していきますね。
債務の状況、生活状況はこんな感じです
- 消費者金融3社 82万円
- 通販会社6社 26万円
- 計108万円の債務
- 夫と2人暮らし
- 自宅は夫所有の一戸建て(住宅ローンなし)
- 本人の収入 手取り10万円(パート)
- 夫は定年間近の会社員 手取り22万円
債務額の割には多い債権者数。何を買ったのか?借りたお金を何に使ったのか?聞いてみると

債務の聞取りをしていて気になったのは、債権者数でした。特に通販会社。要するにテレビショッピングなどで買い物したけども、代金を払っていないということです。買ったものの内訳は、健康な水、黒酢カプセル、化粧品など。
ちなみに、消費者金融の借り入れは、結婚して別に暮らしている子への援助や、一緒に食事をしたときの外食代だということでしたが、化粧品などにも使っていそうな雰囲気でした。
面談中、夫婦バトル勃発(失敗談)

面談中のその夫婦ですが、話を聞いている最中に軽い夫婦ケンカが始まってしまいました。ケンカの理由はこうです。
夫としては2~3カ月前から、妻を破産させようと考えていた。これ以上の返済は無駄になるため、「もう支払いはしなくていい」と妻に話していた。本人は破産の意思はなかったが、夫の言うことを聞いて支払いを止めたら、カードが使えなくなった。
そういう状況の中で

どうして支払いを延滞したんですか?

だって夫が払うなって言うから!?
普通に質問したつもりだったのですが、咎められているように感じたのかな?次回からは聞き方に気を付けようと、反省しました。
自分自身はどうしようと思っているのか?本人の意向を確認

より詳しく話を聞いてみると、夫の意向は、やはり「妻を破産させてやって欲しい」ということでした。一方、本人は「自分で払う」と言っています。理由を聞いてみたところ、借入ができなくなると子への援助ができなくなるからということでした。長男は結婚して子どももいるのだけど、会社を辞めて家に引きこもっているから、お金がなくて心配に思っていると。
でも私には、夫の前で強がって無理をしているように感じました。方針的には、私も破産にすべきと思っていたので、
破産を選択した場合、このまま放置した場合の2つの未来をお話しました。
- 手続きの間はいろいろとやることが多くて大変
- でも全部終わるとすべて清算されて返済は消える
- これまで私は多数の破産申立てを扱ってきた。手続きが終わった後に後悔した人は1人もおらず、みんな最後は晴れやかな表情になって喜んでいる。
- 訴訟を起こされ、給与を差押えられる可能性が高い(債権者に職場を把握されている)。
- そうなるとお金を強制的に回収されるだけではなく、職場にも知られてしまう。
本人の気持ちに変化が

わかりました。では、お願いします。
それまでは私も相談者も険しい表情で話をしていたのですが、承諾をいただいた後は要所要所でお互いに少し笑顔を見せながら話をすることができました。まずは信頼を少し獲得できたので、依頼をしてもらう、という結果になったのだと思います。
今回のポイント
それでは、本件の依頼者の事例について、実務上、気を付けるべきポイントをまとめてみました。
債務額108万円でも自己破産を受任すべき!

そもそもこれくらいの金額だと、普通は任意整理で受任しますよね?
でも、考えてみてください。任意整理で受任するということは、少なくとも108万円の債務を払わないといけないわけです。しかも元金が108万円ですから、実際に任意整理の交渉を始めると、相手は利息・損害金も請求してくるでしょう。すると和解額が150万円を超えてくることも考えられます。しかも、本人はそれに加え司法書士報酬も負担しなければならないので、総額で200万円近い負担になってしまいます。
一方、自己破産の場合は、申立費用で50万円以上(管財費用含む)かかってしまいますが、債務が0円になります。
しかも、任意整理よりは破産申立ての方が、司法書士報酬も高額になるので、司法書士としても助かります。それであれば、少ない債務額であっても、自己破産を選択してもう方が、本人にとっても司法書士にとってもメリットがあるわけです。
夫の協力があれば任意整理でも処理できそうだけど

ところで疑問に思うことはないですか?最初に電話してきたのは夫ですし、面談にも同席してくれました。とすると、
「夫も返済に協力してくれるんじゃないの?108万円程度なら払えそうだけど、、、」と普通は考えますよね?私も同じように考えました。
夫に返済に協力する気はないのか確認してみたところ「ないです。私はこれまで、妻の作った借金を何度も肩代わりしてきました。昨年も80万円払ったばかりです。もうこれ以上は、1円も払うつもりはありません!」
とのこと。つまり、本件について夫の協力はまったく期待できないということです。
裁判所も同じことを考えるはず

さて、夫の「私はこれまで、妻の作った借金を何度も肩代わりしてきました。昨年も80万円払ったばかりです。もうこれ以上は、1円も払うつもりはありません!」という言葉は、とても大切です。
夫が協力してくれれば決して返せない額ではないと疑問を感じたので、私は夫に確認したのです。ということは裁判所も同じ疑問を抱くだろうと考えるべきです。もし申立の段階でこのような事情を説明しなければ、裁判所(または管財人)から、後日照会がきます。照会が来ると上申書や報告書を作成して提出しなければならず、その手間が増えてしまいます。
そのため、自分が気になったことは定型の報告事項には入っていなくても、最初から報告を上げるべきです。
裁判所はここを気にするだろうな、というポイントを先読みするわけです。破産申立てにおいて大切なのは債務額ではなく、破産申立てを行った理由付けです。
「でも、そんなポイントわからない」
と不安に思った人もいるでしょう。わかります、その気持ち。私も裁判所が何を考えているか、最初の頃はまったくわかりませんでした。

最初の頃は私も余裕がなくて、定型の申立書式の項目を埋めることしか頭になかったです。いい加減な申立書を作成したら、なんだか怒られそう、、、、と思ってました。
実務をこなしていくうちに少しずつ自信がついてきますので、大丈夫ですよ。今は裁判所という世界を知らないだけです。実は法務局より、アバウトだったりします。勉強して知識を仕入れて(インプット)、その知識を利用して実務を行う(アウトプット)を繰り返すことが大切です。しっかりとした理由付けを行い、裁判所を説得するイメージで書類を作成しましょう。
面談中に本松が考えたこと
なお、本件は多数の通販会社に未払金があります。その理由や、その他の借入れの理由を確認した際に、私はタメ息が出ました。その原因が分かっている人は、よく勉強ができている人です!わからなかった人も安心してくださいね。これから一緒に勉強していきましょう。タメ息が出た理由、それは「管財事件になるな」と直感したからです。

分からない方のために、簡単に説明しますね。今回の債務のもっとも大きな原因は「浪費」です。普通に考えると、住宅ローンも家賃の支払いもない自宅で夫婦2人併せて30万円以上の収入で暮らしているのです。余裕ありそうですよね?しかし、現実的には妻は支払不能に陥っています。
この場合、原因は浪費と考えるべきでしょう。そして、「浪費」は、本来免責不許可事由に該当します。

しかし今回の妻のように初めての破産申立ての場合は、裁判所も問答無用で不許可の決定を出すわけではありません。しっかり調査を行い、本人に反省の色が確認でき、今後の生活立て直しの可能性が高いと判断すると、免責許可決定を出すのです。その調査を管財人に命ずるので、私は本件は管財事件になる可能性が高いと判断したのです。
管財人が付くのは財産がある場合や会社経営者の場合のみだと勘違いしている人も多いと思います。
実は、私も以前はそうでした。だから勘違いしていた人も安心してくださいね。そんなレベルの私だって、今はバリバリ活躍できていますから。今、学習すればいいのです。今回のように免責不許可に該当しそうな場合でも、管財事件になりますので、しっかり覚えておきましょうね。
債務整理のプロになるには、こういった細かい点を丁寧に学んでいくことが大切です。
自己破産できると判断したポイント

とは言っても、自己破産を申し立てる上で大切なポイントがあります。それは「支払不能」であるということです。
(破産手続開始の原因)第十五条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。引用元:破産法第15条
いくら本人に破産をしたいという希望があっても、裁判所に支払不能であることを認めてもらえない限り、自己破産は不可能なのです。そのため債務額よりも破産申立てを行う理由付けを重視して、さらにその根拠を示すことが大切です。
しっかり聞取りを行うことが大切
夫が債務額と会社名を書いたメモをもってきていたのですが、「〇〇法津事務所 〇日〇時」と右下の端に書いてありました。

ここに相談に行ったのですか?

「この額だと破産は無理」と断られました
なるほどなるほど。
普通はそう考えるだろうな。でも少し聞き取りが甘いな。
と思いました。
破産申立てを行う理由付けを考えよう
確かに今回は、自己破産の案件にしては債務額が少ないです。しかし、私がそれでも自己破産で考えようと判断した最大の要因は
定年です。
聞けば妻はパート先の定年まであと1年半しかないとのことでした。世帯の収入状況から考えて、破産をせずに普通に払っていく、または任意整理をして払っていくとしても、最低でも3年はかかる債務です。
話を聞くと、定年後も再雇用してくれるケースは多いとのことでしたが、パートは1年契約とのことなので、いつ契約を切られてもおかしくありません。しかも夫も1年程度で嘱託職員になるそうなので、手取りが5万円減ってしまうと。そうなると、現実的に返済が難しいですよね。
裁判所にも同様の報告を上げて、債務額が少ないのに破産申立てを行う理由付けをすればいいのです。
私はそこまで聞いたので「破産でいける!」という判断をしましたが、その前に相談した事務所はそこまで詳しく聞かなかったのでしょう。「自分はそこまで聞取りができるかな?」と不安に思った人もいるでしょう。でも、自己破産の申立てにおいて重要なのは債務額ではなく理由付けだという認識を持っていれば、面談時の聞取りの最中に自然と疑問点が浮かんできます。少しずつ勉強をしていけば、慣れていなくてもできるようになりますので、少しずつ学んでいきましょう。
まとめ
以上、
破産案件になるかどうかは債務額の問題じゃない。破産を申立てる理由付けが大切。
という点についてお伝えしました。確かに自己破産の申立ての要件は、「支払不能」であることです。しかし支払不能について杓子定規に決まっているわけではないので、案件毎に個別に判断していくことになります。任意整理をして問題なく返済していけそうならば良いのですが、返済に不安が残りそうな場合は、自己破産を検討すべきです。
あなたが専門家として自己破産を申立てるべきと判断したら、お客様を説得し、理解を得た上で破産の方針で進めるというのが、司法書士がすべきことです。そのためには、しっかりと聞取りを行い、「破産申立てに繋げられる理由はないか?」という視点で考えることも大切です。いろいろな角度から考える癖をつけましょうね。
それでは、以上、本松でした。
なお、下記の記事でも同じ事例を紹介しています。今回とは違う視点から注意点を解説していますので、ぜひ読んでくださいね。
大事なのは依頼者の”具体的な”気持ち。こと細かに依頼者の気持ちを考えよう。
「司法書士事務所 債務整理研究会」のお知らせ

不安な司法書士の方は本松へぜひご相談ください。
「個人再生?何だそれ?聞いたことないぞ。」
というレベルだったのです。そんな私でも何とかやっていくうちに5032件の債務整理案件を処理できるにまで成長したのです。 このサイトをご覧になっている司法書士のあなたは、当時の私より間違いなく知識があります。だから断言します。あなたでも、債務整理案件は自信を持ってすぐにできるようになる!
しかし、私のように回り道せずに、なるべく効率的に学習して欲しいと思い、このように情報発信をしております。時間は有限です。限られた時間をなるべく有効的に使うことで、結果的にあなたの司法書士としてのステップアップや事務所経営の安定にも繋がるのです。これまで積極的に債務整理業務に取り組んで来なかった司法書士でも0から債務整理を学べる研究会です。共に学ぶ司法書士の仲間たちとの情報交換も可能なので、興味のある司法書士の方はぜひご参加ください。
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