
こんにちは。
これまで5032件の借金問題を解決してきた、ひまわり司法書士法人の本松です。
この記事では、自己破産申立における金融機関以外の漏れてしまいがちな5つの債務について発表します。
自己破産は多額の負債を抱えた方が経済的再生を行うための清算手続きです。その性質上、貸金債務、保証債務、立替払債務(クレジットカードのショッピング、車のローンなど)などが抱えている債務の中心になりますが、それ以外にもいろいろな種類の債務を抱えている依頼者もいます。
金融機関以外の債務について破産申立時に手続きから漏れてしまうと、その債務は免責されないという結論にもなりかねませんので申立を行う司法書士は注意が必要です。
【自己破産申立における金融機関以外の漏れてしまいがちな5つの債務】
1.滞納している携帯電話料金(通信費、端末代金)、光熱費
2.以前住んでいた住宅の未払い家賃、管理費、原状回復費用
3.未払いの病院代
4.(顕在化していない)保証債務
5.給与の前借り

債務=金融機関というイメージがあるので、確かに漏れてしまう債務もありそうですね。金融機関以外の債務も免責の対象になるのですか?

もちろん対象になりますよ。但し税金等の公租・公課や、交通事故の賠償金など非免責債権もありますので、それらとの区別は必要です。

わかりました。しかし依頼者本人もすっかり忘れている場合は司法書士も分からないですよね? その場合はどうすればい良いでしょう?

まずは面談時にしっかりと説明をしておくことが重要です。「一部の債権を除外した申立はできません。」と説明して本人にも意識してもらうようにしましょう。細かい債務が出てきそうな依頼者には、受任から申立準備までの間に自宅に届いたお金に関する郵便物はとにかく月別にすべて保管しておくように伝えておきましょう。あとは申立書類作成時に、家計表や通帳をしっかりチェックすることが最も大切です。漏れがないか確認しましょう。
滞納している携帯電話料金(通信費、端末代金)、光熱費
滞納している携帯電話等の通信費や端末代金や未払いの光熱費も免責対象の債権です。但し、携帯料金や光熱費の支払いをしないと「携帯電話が使用できない」「ガスが止められる」などの状況に陥るので、本人が気づいていないというケースは考えられないと思います。
そのためこれは現在の契約のものではなく、以前使っていた携帯電話の料金、以前住んでいた住宅の光熱費を失念しているという場合がほとんどです。
古い携帯電話の契約で未払いがあれば、債権回収会社に債権譲渡される場合もあります(NTTドコモの場合、ニッテレ債権回収に債権譲渡されているケースがよくあります)し、携帯会社がそのまま債権を保有している場合もあります。
債権回収会社に譲渡されている場合は、請求を求める書面が届きます。しかし複数回転居している場合などは、債権回収会社が現住所を追えていない可能性も考えられますので、必ず届いているとは言い切れません。
また携帯会社が未払いの端末代金債権をそのまま保有している場合は、CICかJICCの信用情報にその旨が記載されますので、心あたりがある依頼者には信用情報を取得してもらっても良いでしょう。

「この携帯会社に未払いがあるかもしれない」とある程度債権者を特定できる場合は、受任通知を送ってみるのも一つの方法です。そもそも契約がなければ「該当者なし」との回答がきますし、債権譲渡があった場合は譲渡先を知らせてくれます。もちろん債権をそのまま保有している場合は、債権の内容について回答があります。
以前の住まいの未払い光熱費についても注意が必要です。債権額は少額になると思いますので、ついつい本人も忘れがちになることもあります。引越し歴のある依頼者には念のため確認しておいた方が良いでしょう。
◤未払いの昔の携帯電話料金、引越し前の光熱費がないか確認しましょう。
- 未払いになっている携帯電話料金(現在使用していない携帯会社電話など)はないか?
- 以前の住まいの光熱費はしっかり支払いをしているか?
以前住んでいた住宅の未払い家賃、管理費、原状回復費用
以前住んでいた住宅の未払い家賃、管理費や現状回復費用も破産申立における債務となります。
最近は家賃保証会社が入っていることが多いですが、その場合、未払い家賃については家賃保証会社から請求が来ます。依頼者が家賃保証会社の社名を把握していないので、「よく分からない会社から請求が来たけど、架空請求かもしれない」と勝手に思い込んでいる場合もあります。
司法書士が作成する申立書類の中で「破産申立に至った事情」というものがあります。私の事務所の場合は、まずは依頼者本人に借入を始めてから今の至るまでの事情を記入(または入力)してもらっているのですが、しっかり完璧と経緯を書いてくれる依頼者はほとんどいないので、書いていただいた情報を基に詳しく事情を伺っています。その中で引越し歴が確認できれば、「家賃・管理費の未払いはないか?」「現状回復費用は請求されなかったか?」「聞き覚えのない会社から督促は来ていないか?」などにつき確認するようにしましょう。
◤引越し歴のある依頼者には要確認。
- 家賃・管理費の未払いはないか?
- 原状回復費用や敷金・保証金の精算はしっかりと完了しているか?
- 聞き覚えのない会社(家賃保証会社)からの請求を無視していないか?
未払いの病院代
未払いの病院代(入院代、治療・療養費)も破産申立における債務となります。

病院の治療代も免責対象債権になるんですか? 税金等と同じく非免責債権と同じ扱いになりそうな感じがしますね。

そうですね。何となく免責対象にならないイメージがありますよね。しかし病院の費用も破産手続上は一般の債権として扱われますので、債権者一覧に記載した上で申立を行う必要があります。
破産申立を行う依頼者の中には、ケガや病気によって一定期間仕事ができなくなったり(建築業など肉体労働系の仕事に就いている方のケースが多いです)、うつ病などの精神的な疾患によって就業できなくなってしまったことが原因で借入が膨らんだという案件も存在します。そのため医療費が発生しているケースも多いのですが、申立時点で未払いの病院代があれば、一般債権として申立を行いましょう。

大手の病院だと病院代の未払い件数が多くなったために、債権回収を法律事務所に依頼しているケースもあります。その場合、代理人弁護士名で支払いを求める通知が届いているはずなので、依頼者には郵便物をしっかりとチェックするように伝えておきましょう。
但し、破産債権として扱うのはあくまで滞納している過去の病院代です。現在進行形で通院・入院しているのであれば、その費用は他の生活費と同じく共益債権として扱われますので、ちゃんと支払いを行いましょう。
◤未払いの病院代も忘れがちなので要注意。
- 以前、通院・入院していた病院はないか?
- 現在通院・入院している病院の費用はしっかりと支払うことが必要。
(顕在化していない)保証債務
依頼者が保証人になっている保証債務も破産申立における債務となります。
特に家族・親族の債務について連帯保証をしているケースが多くなります。例えば次のようなケースです。
①依頼者が子の奨学金の連帯保証人になっている
②妻である依頼者が夫の借入の連帯保証人になっている
③依頼者が甥・姪の賃貸アパートの連帯保証人になっている
これらの保証債務は顕在化していなくても(保証人に請求が来ていなくても)、破産債権として申立を行う必要があります。
しかし実務上は、破産申立を行う前に司法書士の受任通知を発送しますので、何も考えずに受任通知を送ってしまうと破産申立前に問題が発生してしまいます。例えば上記①のケースだと、債権者に受任通知が届いた時点で主債務者(主債務者が未成年者の場合は親権者)が一括弁済を請求されてしまいます。一括請求を回避するためには、受任通知を発送する前に保証人変更の手続きを行ってもらう必要がありますので注意しましょう。③も同様に対応することが多くなると思いますが、最近は家賃保証会社の利用が多いので、個人の保証人を求められるケースは少なくなってきています。
また、主債務者である子と連帯保証人である親が同時に破産申立を行うケースもありますので、その場合は保証人変更の手続きを行うことなくそのまま両名の破産手続きを進めることができます。債権者に発送する受任通知にも、両名の依頼を受けたとはっきりわかる記載が必要ですし、その後の債権者からの方針確認時にもその旨を説明しておく必要があります。

自己破産において保証債務は慎重に判断する必要があります。申立人が保証人になっていることもあれば、逆に申立人が主債務者の借入について親族等が連帯保証人になっていることも考えられます。クレジットカードや通常のカードローンで保証人を求められることはほとんどありませんが、住宅ローン、教育ローン、奨学金など他の種類の借入の場合は、保証契約についてしっかりと確認しましょう。
◤未請求の保証債務も要確認。
- 顕在化していない保証債務も破産債権として申立を行う必要がある。
- 保証人変更などは申立前ではなく、受任通知発送前に行っておく必要がある。
- 申立人を主債務者とする借入に親族等の保証人が付いていないか要確認。
給与の前借り
給与の前借りがある場合も、他の債務と同様に破産申立における一般債権となります。
破産を検討している依頼者の中には、どうしても不足する生活費を補填するために勤務先から給与の前借りを行っている方もいます。2万、3万円程度会社から借りて次回の給与支給時に精算するパターンや、本来月払いなのに週払いで受け取っているパターンなどがあります。
いずれのパターンであっても債務となってしまいますので、他の債務と同様に破産債権として申立を行う必要があります。そのため申立時に給与の前借がある場合は、勤務先に債権届出書(債権調査票)を記入してもらった上で、破産債権として申立てを行う必要があります。
しかし、給与の前借りは次の大きな問題点を孕んでいるので注意が必要です。
自己破産を行う要件として「支払不能」であることが必要です。破産法においては破産手続開始の原因として、債務者が「支払不能」であることを求められているからです。
(破産手続開始の原因)第十五条 債務者が支払不能にあるときは、裁判所は、第三十条第一項の規定に基づき、申立てにより、決定で、破産手続を開始する。2 債務者が支払を停止したときは、支払不能にあるものと推定する。引用元:破産法第15条
そして、司法書士の介入は一般的には支払不能であると判断されますので、受任通知を送った段階で支払不能状態であると見なされます。破産申立を行う時点では、とっくに受任通知を他の債権者に発送しているはずなので、申立時点で継続的な給与の前借りがあるということは、事実上、支払不能状態にあるにも係らず新たな借入を行っていることなります。
しかも、その後に支給される給与で精算するということは、給与の前借り債務を弁済したことになります。つまりこの場合、債権者である勤務先に対してのみ弁済することになるため、偏頗弁済に該当してしまうのです。
(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
第百六十二条 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。引用元:破産法第162条(一部抜粋)
偏頗弁済は免責不許可事由に該当してしまいます。前借りをしたという理由だけで免責不許可になることはないと思いますが、本来であれば同時廃止で処理できた案件が管財事件になってしまう原因を作ってしまいます。前借りがある依頼者がいた場合、正式な受任前に勤務先と借入について精算してもらう、勤務先と協議して既前借金は破産債権として免責することに承諾してもらう、などの選択肢が考えられます。案件に応じて柔軟に対応するようにしましょう。
◤給与の前借りは要確認。
- 給与の前借りも一般の債権と同様に破産債権として申立を行う必要がある
- そもそも申立時点で給与の前借りがあること自体が問題。できれば受任時点で精算しておくことが好ましい。
まとめ
以上、自己破産申立における金融機関以外の漏れてしまいがちな5つの債務について発表しました。
【自己破産申立における金融機関以外の漏れてしまいがちな5つの債務】
1.滞納している通信料(携帯電話等)、光熱費
2.以前住んでいた住宅の未払い家賃、管理費、現状回復費用
3.未払いの病院代
4.(顕在化していない)保証債務
5.給与の前借り
自己破産においては非免責債権も含め、とにかくすべての債務を裁判所に報告しなければなりません。もし漏れがあると手続き自体に瑕疵が生じる恐れがあります。そして何より、この記事で紹介した債権のように破産で免責される債権の漏れがあると、せっかく免責されて支払義務が消滅するはずだった債権が残ってしまうという結論にもなりかねません(破産手続きから漏れた債権がどうなるかについては一律の規定があるわけではないので、個別案件ごとの判断になります。しかし少なくとも債権者は簡単には納得しないはずなので、問題を残してしまいます。)。
司法書士は依頼者からの聞取りをしっかり行った上で、通帳や家計表、レシート類をしっかりチェックして、債権者の漏れがないように気を付けましょう。

その他にもレンタルDVDの延滞料、ネットオークションの手数料など細かい債務が残っている場合もあります。聞取りや資料のチェックがしっかりと出来ていれば自然と浮かび上がってくることが多いのですが、慣れないうちは意識して確認するようにしましょう。
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不安な司法書士の方は本松へぜひご相談ください。
「個人再生?何だそれ?聞いたことないぞ。」
というレベルだったのです。そんな私でも何とかやっていくうちに5032件の債務整理案件を処理できるにまで成長したのです。 このサイトをご覧になっている司法書士のあなたは、当時の私より間違いなく知識があります。だから断言します。
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しかし、私のように回り道せずに、なるべく効率的に学習して欲しいと思い、このように情報発信をしております。時間は有限です。限られた時間をなるべく有効的に使うことで、結果的にあなたの司法書士としてのステップアップや事務所経営の安定にも繋がるのです。
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