個人再生の別除権とは何か? 取り扱いが難しそうな別除権協定についても解説します!
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こんにちは。
これまで5032件の借金問題を解決してきた、ひまわり司法書士法人の本松です。

この記事では、個人再生における別除権について解説します。

個人再生の手続きにおいては、担保付の特定の債権を再生手続から外し再生債権に優先して弁済することがあり、この特定の債権のことを別除権と呼びます。所有権留保付自動車ローンが代表例になりますが、担保付だからといってすべての債権が別除権となるわけではありません。別除権となるためにはいくつかの要件を備えてある必要があります。

また、所有権留保付きの自動車ローン以外にも、別除権として取り扱われる債権はいくつか存在します。

そこで今回は、個人再生において別除権はどのように扱われるのかという点について解説します。

今回のポイント

【個人再生において別除権はどのように扱われるのか】

  1. 別除権とは何か?
  2. どのような債権が別除権とされるのか
  3. 別除権協定とは何か?
新人司法書士新人司法書士

別除権? 聞き慣れない言葉ですね? 個人再生特有の用語ですか?

司法書士の本松司法書士の本松

そう考えて差支えありません。個人再生以外で使用することのない用語ですね。難しそうに聞こえる言葉ですが、個人再生において優先的に弁済を受けることのできる債権と捉えておきましょう。

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優先的に弁済を受けることができる? 例えばどんな債権ですか?

司法書士の本松司法書士の本松

例えば担保付の債権です。個人再生においては所有権留保付きの自動車ローンがその代表例ですね。

別除権とは何か?

別除権とは再生債務者の財産に設定された担保権を有する債権のことです。別除権の債権者は、債務者が個人再生を行った場合においても再生手続によらずに弁済を受けることができます。

(別除権)
第五十三条 再生手続開始の時において再生債務者の財産につき存する担保権(特別の先取特権、質権、抵当権又は商法若しくは会社法の規定による留置権をいう。第三項において同じ。)を有する者は、その目的である財産について、別除権を有する。
2 別除権は、再生手続によらないで、行使することができる。
3 担保権の目的である財産が再生債務者等による任意売却その他の事由により再生債務者財産に属しないこととなった場合において当該担保権がなお存続するときにおける当該担保権を有する者も、その目的である財産について別除権を有する。

引用元:民事再生法第53条

例を挙げると、自動車をローンで購入した場合の債権(ローン会社の立替払債権)です。自動車をローンで購入した場合、そのローンの支払いが完了するまでの間はローン会社に車の所有権があります。ローンで購入する際の自動車代金の立替払契約においては「所有権留保特約」が付いています。そのためローンを完済するまでは所有権はローン会社にあります。

ローン会社はその担保となる車を引き揚げて換価清算することができるので、債務者が個人再生手続を行ったとしても優先的に弁済を受けることができるのです。

どのような債権が別除権とされるのか

別除権は民事再生法第53条1項で定められている他、仮登記担保があります。所有権留保を別除権として扱うという明文の規定はありませんので個々の事件においての裁判所の判断になりますが、一般的には別除権として認められる(要件はありますが)という認識で良いでしょう。

実務上で別除権を検討する場合、自動車の所有権留保のケースが最も多くなります。

民事再生法第53条1項の定める別除権

民事再生法の定める別除権の種類

①特別の先取特権
②質権
③抵当権
④商法若しくは会社法の規定による留置権

①特別の先取特権

民法第311条の定める「動産の先取特権」などがこれにあたりますが、実務上問題になることはないのであまり深く考えなくても良いでしょう。

②質権

質権も担保権の一種なので別除権として規定されています。しかし特別の先取特権と同様に実務で経験する可能性はとても低いと考えられます。

③抵当権

司法書士には馴染みの深い抵当権も別除権となります。債務者が個人再生手続を進めていたとしても、債権者は再生手続の外で抵当権を実行して物件を競売にかけることができます。司法書士にとっては感覚的に最もイメージしやすい別除権と言えるでしょう。

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なお、住宅資金特別条項(住宅ローン特則)を利用できるのはあくまで自宅に設定された住宅ローン債権についての抵当権だけです。自宅以外の不動産に設定された抵当権については別除権として扱われますので注意が必要です。

(住宅資金特別条項を定めることができる場合等)
第百九十八条 住宅資金貸付債権(民法第四百九十九条の規定により住宅資金貸付債権を有する者に代位した再生債権者(弁済をするについて正当な利益を有していた者に限る。)が当該代位により有するものを除く。)については、再生計画において、住宅資金特別条項を定めることができる。ただし、住宅の上に第五十三条第一項に規定する担保権(第百九十六条第三号に規定する抵当権を除く。)が存するとき、又は住宅以外の不動産にも同号に規定する抵当権が設定されている場合において当該不動産の上に同項に規定する担保権で当該抵当権に後れるものが存するときは、この限りでない。
引用元:民事再生法第198条1項

④商法若しくは会社法の規定による留置権

商法第31条、会社法第20条の代理商の留置権などが該当します。これも実務で遭遇することはまずないと言えますので、説明は省略します。興味のある方は調べてみてください。

仮登記担保

再生債務者が所有している不動産に設定された仮登記担保も、通常の抵当権に準じて考えられるため、別除権として扱われます。

所有権留保

所有権留保は、自動車等の売買契約を交わした際に売買の目的物は買主に引き渡すけれども、目的物の所有権は売買代金を完済するまで留保する(ローン債権者に留める)という性質を持っています。
所有権留保は自動車やバイクのローンで使用されることの多い契約形態です。自動車ローンの債権者が別除権を行使する場合、まずは車両を自社で引揚げ換価処分します(実際は換価処分せずに査定額で清算するパターンが多いです。)。その売却代金で残債務がすべて充当されれば完済ですが、完済できない場合は、残債務については再生手続に組み込み、再生債権として取り扱われるということになります。

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車検証に「所有者」としてローン会社が登録されていれば所有権留保ということですよね?

司法書士の本松司法書士の本松

確かに車検証にそのように登録されていれば、所有権留保と考えて間違いありません。しかし最近は、車検証に登録がなくても所有権留保特約付きの契約をしている債権者も多いです。トヨタファイナンスなどの自動車メーカー系のローン会社や、オリコやアプラスいった歴史の古い信販会社は車検証にしっかり登録しますが、イオンプロダクトファイナンスやプレミアといった比較的新しいローン会社は車検証に登録しないこともあります。特に私はイオンプロダクトファイナンスが車検証に登録されているのを見たことがないので、イオンプロダクトファイナンスは原則的には登録を行わない方針だと思われます。

注意! 所有権留保が別除権として認められるためには対抗要件が必要

所有権留保が別除権として扱われるためには対抗要件を具備していることが必要です。つまりローン会社が車検証上で「所有者」として登録されていることが必要なのです。民事再生法で定められているわけではないのですが、平成22年6月4日の最高裁判決で「購入者に係る再生手続が開始した時点で上記自動車につき上記立替払をした者を所有者とする登録がされていない限り,販売会社を所有者とする登録がされていても,上記立替払をした者が上記の合意に基づき留保した所有権を別除権として行使することは許されない。」と示されました。

そのため車検証上で「所有者」として登録されていない債権者は別除権者として扱うことはできず、他の債権者と同様に再生債権者として扱う必要があるのです。

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しかし、それでも債権者は車両の引き渡しを求めて来ますよね? その場合どのように対応すればよいのですか?

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申立時期までの期間によって対応を変える必要があります。個人再生は申立まで少なくとも数か月要するのが一般的なので、受任したばかりで申立までに時間がある場合は債権者の求めに応じて引き渡しても良いでしょう。まだ再生手続に入る前の段階なので、申立時に裁判所にしっかり報告すればそれほど大きな問題にはなりません。一方、申立直前なのであれば車両の引き渡しをせずにそのまま申立を行い、その後どうするかは再生委員や裁判所と相談して決める、という方法もあります。

別除権協定とは何か?

個人再生手続において、自動車ローン債権者は別除権を行使すると車両の引き揚げを行います。しかし、再生債務者がローンの対象の自動車を使用して宅配業を行う個人事業主である場合や、車両がないと生活できない山村部に暮らしている場合など、自動車がないと再生債務者の事業や生活の維持が困難な場合もあります。

その場合は自動車ローン債権者と協議を行い、自動車を引き揚げない代わりに自動車ローンを再生手続から除外して全額弁済するという合意を取り交わすことがあります。この合意を「別除権協定」と呼びます。別除権協定の内容は債権者次第なので、一括弁済になる場合もあれば分割弁済になる場合もあります。

但し、別除権協定を結ぶには裁判所の許可が必要です。裁判所は再生委員と協議を行い、別除権協定によって再生計画通りの弁済に支障が出ないか、他の再生債権者への影響はあるか、などを判断して許可するかどうかを決めます

(再生債務者等の行為の制限)
第四十一条 裁判所は、再生手続開始後において、必要があると認めるときは、再生債務者等が次に掲げる行為をするには裁判所の許可を得なければならないものとすることができる。
(中略)
九 別除権の目的である財産の受戻し
2 前項の許可を得ないでした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。
引用元:民事再生法第41条1項9号、2項
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ただ、実務上では裁判所の許可は出にくいのが現状です。事業継続に不可欠な場合は許可が出ることもありますが、「自動車がないと不便だから」程度の理由だと難しいでしょう。さらに、裁判所が許可したとしても、再生債権者が別除権協定を不服に感じ、その後の再生計画に同意しないこともあります。そのため別除権協定の成立はかなりハードルが高いことだと認識しておきましょう。

まとめ

以上、個人再生における別除権について解説しました。

今回のポイント

【個人再生において別除権はどのように扱われるのか】

  1. 別除権とは何か?
  2. どのような債権が別除権とされるのか
  3. 別除権協定とは何か?

個人再生業務の経験の無い司法書士は、別除権という概念については初めて知ったというケースも多いと思います。実務上、別除権を考えるのはほとんどのケースで自動車の所有権留保です。依頼者は「車がないと生活できない」と言いますが、別除権協定を締結するのはかなり難しいのが現状です。

よくある解決策としては、ローン会社に車を引き渡した上で安い車両を現金一括購入する、親族・知人から借りる、月額制のレンタカーを借りるなどです。もちろんどうしても自動車がないと生活できない場合に限ります。

ある程度都市部に住んでいる依頼者は、多少不便でも自動車を使用せずに電車・バスなどで生活するように理解してもらいましょう。

司法書士は別除権の現状についてしっかり把握していないと、依頼者に「別除権協定を結べば自動車に乗り続けることができますよ」と判断の甘い説明をしてしまうことになります。この記事を読んでしっかり学び、依頼者に適切な説明ができるようになりましょう。

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