個人再生における清算価値算出シートについて解説します!
Pocket

こんにちは。
これまで5032件の借金問題を解決してきた、ひまわり司法書士法人の本松です。

この記事では、個人再生における清算価値算出シートついて解説します。

個人再生の清算価値算出シートとは、再生計画における再生債権の弁済額を決定するために再生債務者の清算価値の金額を計算するために使用する書式です。この書式で清算価値保障額を算出した上で、民事再生法の定める最低弁済額や2年分の可処分所得(給与所得者等再生の場合)と比較して、最も金額の大きいものが再生債権の弁済額になります。

司法書士の本松司法書士の本松

なお「清算価値算出シート」は東京地裁での呼び名ですが、裁判所の管轄により呼び名が異なります。例えば千葉地裁では「清算価値チェックシート」と呼びます。もちろん同じ内容の書類です。

今回のポイント

【個人再生における清算価値算出シート】

1.清算価値算出シートはホームページからダウンロードできる

2.清算価値算出シートの各項目
①現金
②弁護士・司法書士預かり金
③預金・貯金
④退職金見込み額
⑤貸付金・売掛金等
⑥積立金等
⑦生命保険等解約払戻金
⑧有価証券
⑨自動車・バイク
⑩高価品・事業用動産等
⑪不動産
⑫その他(敷金・保証金、相続財産、過払金など)

3.裁判所管轄により自由財産の取扱いが異なるので注意

新人司法書士新人司法書士

計算する項目がたくさんあるのですね。結構大変そう!

司法書士の本松司法書士の本松

そんなことはないですよ。ひとつずつ丁寧に数字を拾っていけばそれほど苦労はしません。但し、依頼者から資料を提出してもらわないと司法書士は清算価値算出シートを作成できないので、依頼者に資料をしっかりと提出してもらうことが大切です。

清算価値算出シートはホームページからダウンロードできる

個人再生の清算価値算出シートはホームページからダウンロードできます。例えば東京地裁の書式については日弁連のホームページからダウンロードができますし、千葉地裁の書式は裁判所のホームページからダウンロードできます。(例)東京地裁書式(日弁連HP)千葉地裁書式

また、司法書士会の会員用ページからもダウンロードできますが、会によって事情は異なると思います。それぞれの所属会の会員用ページで確認してください。また大阪地裁など一部の裁判所では、清算価値算出シートに代えて個人再生用の財産目録を提出する運用になっています。もちろん書式は異なりますが書類の目的自体は同じなので、記入する項目に大きな違いはありません。

司法書士の本松司法書士の本松

管轄裁判所によって「内容が把握できればどこの書式でもいいですよ」というところもあれば「〇〇地裁の書式で作成してください」というところもあるので、事前に裁判所に確認しましょう。

清算価値算出シートの各項目

清算価値算出シートには、以下の入力項目があります。管轄の裁判所により少しずつ項目は異なりますが、同じ内容になっています。例えば東京地裁では⑫の「敷金・保証金」「相続財産」「過払い金」が混在する場合、一つの項目で合算金額を記入しますが、千葉地裁ではそれぞれ個別に記入する書式になっています。

清算価値算出シートの記載項目

①現金
②司法書士(弁護士)預かり金
③預金・貯金
④退職金見込額
⑤貸付金・売掛金等
⑥積立金等
⑦生命保険等解約払戻金
⑧有価証券
⑨自動車・バイク
⑩高価品・事業用動産等
⑪不動産
⑫その他(敷金・保証金、相続財産、過払金など)

それでは、それぞれ個別に解説していきます。

司法書士の本松司法書士の本松

なお、どの項目も「再生手続開始決定日」時点での金額を記入します。現金は日数が経過するとその日の手持ち金額が分からなくなると思いますので、決定が出たらすぐに依頼者に連絡して手持ち現金の額を確認しておきましょう。

現金

再生手続開始決定日時点での手持ち現金の額を記入します。

但し、20万円以下の現金は自己破産手続きにおいて自由財産とみなされ配当対象とならないことから、清算価値算出シートに記入する必要はありません。現金額が20万円以下なのであれば0円と記入しますし、30万円の現金を保有していれば20万円を差し引いて10万円と記入しましょう。

司法書士(弁護士)預かり金

司法書士の預かり金があれば、清算価値算出シートに記入します。

新人司法書士新人司法書士

司法書士の預かり金とは何ですか?

司法書士の本松司法書士の本松

債務整理をあまり行わない司法書士にはピンと来ないかも知れませんね。以下に詳しく説明します。

司法書士の預かり金とは?

個人再生や自己破産を受任した際の費用の精算方法のひとつとして、預かり金方式というものがあります。
例えば司法書士報酬が30万円、実費が5万円程度見込まれる場合、申立前に依頼者から35万円預かります(分割払いになることが多いです)。そして申立時点でそのうち30万円を精算し(司法書士の売上として会計処理を行う)、手続きにかかる実費(印紙代、郵券代、官報公告費用など)は残りの5万円の預かり金から、その都度支出する、という運用です。
再生手続開始決定時に預かり金の余剰があるのであれば、その額を預かり金として記入します。

各事務所により費用の支払方法や精算方法は様々です。預かり金とは「本来は再生債務者のものだけど、手続きを遂行する上での便宜上、司法書士や弁護士が預かっているお金」と考えましょう。あくまで預かり金と考えられる金額があれば記入して、なければ0円と記入すれば問題ありません。

預金・貯金

再生手続開始決定日時点での預金・貯金の額を記入します。記入するのは再生債務者の所有するすべての預貯金額の合計金額です。普通預金だけではなく、定期預金や貯蓄預金などもすべて含まれます。

なお、預貯金口座がある金融機関に対して債務(銀行カードローンなど)を追っている場合、預貯金残高と債務を相殺した額を記入します。相殺の結果、残高を債務が上回る(マイナスになる)場合は0円と記入します。

司法書士の本松司法書士の本松

通常は司法書士が介入した時点で相殺されますので、再生手続開始決定日時点でまだ相殺がなされていないというケースはあまり考えられません。あるとすれば、依頼者が司法書士に対してうっかり申告を忘れていた場合などでしょうね。

退職金見込額

再生手続開始決定日時点での退職金見込額記入します。

しかし ①すぐに退職するわけではない ②退職時に確実に退職金の支払いがあるとは限らない との理由から、清算価値保障においては、退職金見込額の8分の1の額を計上する運用になっています。但し、近日中に退職予定であり退職金の支給される可能性が高い場合は、退職金見込額の4分1を計上します。なお再生手続開始決定時点で既に退職金が支払われていた場合は、単に預貯金(引き出していれば現金)として計上しますので、一切減免はありません

司法書士の本松司法書士の本松

自己破産における申立人の財産計上においても同様の扱いになっています。

なお、退職金見込額の疎明資料として勤務先に証明書を発行してもらう必要があります。再生委員の判断になりますが「できるだけ再生手続開始決定日時点での数字を提出して欲しい」というリクエストが強いので、依頼者には勤務先とそのように調整してもらう必要があります。

また、退職金制度が存在しない、依頼者は退職金支給対象者ではない などの理由で退職金見込額が0円の場合もあります。その際は「退職金が存在しないことの証明書」の書式を司法書士が用意し、勤務先に押印してもらう必要があります。

司法書士の本松司法書士の本松

退職金に関する証明書は、勤め人である依頼者であれば自己破産でも個人再生でも必要です。「会社に破産(再生)するとは言いたくないけど、どう説明して発行してもらえばいいですか?」とよく聞かれます。これといった正解はないのが現状ですが「保険のライフプランのシミュレーションで必要だとファイナンシャルプランナーに言われた、と説明してみてください。」と伝えています。

貸付金・売掛金等

貸付金や売掛金も清算価値算出シートに記入します。

知人や家族に対する貸付金がある場合はしっかり記入しましょう。売掛金は事業を営んでいる依頼者であれば考えられますので、再生手続開始決定日時点で未払いの売掛金債権があるのであれば記入しましょう。

司法書士の本松司法書士の本松

自己破産の場合は未収の貸付金や売掛金があれば、原則として破産管財人が回収を図ります。しかし個人再生の場合は、回収しない代わりにその債権額を清算価値保障として計上するという運用になっています。自己破産と個人再生の違いがよく顕れていますね。

積立金等

積立金等とは、財形貯蓄や社内積立金など資産です。勤務先で加入していて天引きで貯蓄に回されていることが多いと思います。特に大手企業や歴史の古い企業などで実施されていることが多いです。

司法書士の本松司法書士の本松

積立金については要注意です。毎月天引きされていることが多いので、本人にその自覚がないことも多いです。給与明細で確認できるはずなので、本人からの申告が無ければ司法書士から積極的に確認するようにしましょう。

生命保険等解約払戻金

生命保険や火災保険等の解約払戻金も清算価値算出シートに記入します。

掛捨ての医療保険であれば解約払戻金は0円なので記入の必要はありませんが、終身の生命保険や自宅の火災保険などは解約払戻金があるはずなので、清算価値算出シートに記入します。保険会社に請求すれば「解約払戻金証明書」を発行してもらえますが、どの保険会社も発行までに概ね2週間以上はかかります。依頼者には早めに発行手続きをとってもらいましょう。自動車保険も月払いではなく年払いの場合は解約払戻金が発生します。忘れがちですが保険証券をしっかりと確認しましょう。

司法書士の本松司法書士の本松

生命保険も注意するポイントです。積立金と同じく依頼者本人が財産と認識していない場合が多いので、調べてみると解約払戻金がかなり大きかったということもあります。そのため、依頼者と相談した上で申立前に事前に解約してしまい、司法書士費用や個人再生委員の費用に充てるという選択肢もあります。

有価証券

有価証券についても、再生手続開始決定日時点での時価を清算価値算出シートに記入します。

一般的に有価証券といえば株券ですが、実務上はJAバンクや信用金庫等の出資証券がよくあります。他には社債やゴルフ会員権などもこれに該当します。再生手続開始決定日時点での時価を記入します。

司法書士の本松司法書士の本松

どうしても必要なものでなければ、生命保険と同様に事前に換価処分して個人再生の費用に充ててもらうこともあります。

自動車・バイク

自動車・バイクの査定額(時価)も清算価値算出シートに記入します。

交通事故を扱っている司法書士事務所であればイエローブックやレッドブックを疎明資料として清算価値算出シートに記入してもいいのですが、自動車販売店などに査定書を作成してもらい、疎明資料として提出するのが一般的です。再生委員が自動車販売店を手配して、査定書作成を手伝ってくれることもあります。

司法書士の本松司法書士の本松

こういうときのために親しい中古車販売店を取引先に持っておくと便利ですよ。個人再生に限らず自己破産の場合においても車の査定書を要求されるケースもあります。親しければ融通も効かせてくれます!

高価品・事業用動産等

高価品(美術品、記念コインなど)や事業用動産(工作機械など)があれば清算価値算出シートに記入します。

高価品はなかなか遭遇するケースは少ないですが、事業を営んでいる依頼者の場合、資産価値のある工作機械や仕事用道具を持っていることもあるかと思います。自動車の場合と同様に専門業者に査定書を作成してもらい、清算価値保障額として計上しましょう。

不動産

不動産の評価額(時価)も清算価値算出シートに記入します。なお、司法書士なら知っていると思いますが不動産を金銭的に評価する場合、以下のとおりいくつか種類があります。

1.固定資産評価額
2.時価評価額(不動産会社による査定)
3.路線価評価額(土地の場合)
4.鑑定評価額(不動産鑑定士による評価)

清算価値算出シートに記載する金額は 1.固定資産評価額 2.時価評価額(不動産会社による査定)を基準と考えます。しかし具体的にどのように記載するかは管轄裁判所によって運用が異なり、主に以下のようなパターンに分かれます。事前に裁判所に確認しておきましょう。なお、少なくとも3 や 4を採用する裁判所は私の知る限りありません。

清算価値算出シートに記入する不動産の評価額

①時価評価額(不動産会社2社の査定額の平均値)
②固定資産評価額(そのまま)
③①と②の平均値

① 時価評価額(不動産会社2社の査定額の平均値)
最も一般的な評価方法です。疎明資料として2社の査定書を添付してその平均値を記入します。

② 固定資産評価額(そのまま)
都市部から離れた地方部の裁判所管轄で採用されていることが多いです。地方部だと時価査定額と固定資産評価額がそれほど乖離していないために、固定資産評価証明書を疎明資料としてそのままの金額を計上します。もっともこの場合であっても「不動産会社の査定書基準でもどちらでもいいですよ」と言われることも多いです。

③①と②の平均値
不動産会社2社の査定額の平均値を出した上で、さらに固定資産評価額との平均値を算出するという計算方法です。私自身は経験がないのですが、東海地方の裁判所で多く用いられる運用方法とのことです。

司法書士の本松司法書士の本松

司法書士であれば親しい不動産会社があると思いますので査定書が必要な場合はお願いしましょう。債務整理を行っていると査定や任意売却をお願いするケースが多くなってくるので、不動産会社との関係も深くなりやすいのでオススメですよ。

住宅資金特別条項を使う場合は相殺する

住宅資金特別条項を使用する場合は、不動産の評価額と残債務を相殺した金額を記載します。なお相殺の結果、マイナスになるのであれば0円として記入します。

実際の案件ではオーバーローンの状態になっていることが多いので、0円計上することの方が多くなってくると思います。

その他(敷金・保証金、相続財産、過払金など)

賃借物件の敷金・保証金、遺産分割等が未了の相続財産、未回収の過払金などがあれば清算価値算出シートに記入します。

敷金・保証金については賃貸借契約書がその疎明資料となりますが、契約からの経過期間によっては償却分もあると考えられますので、敷金のうちいくら計上するかは再生委員に相談して決めるとスムーズです。
相続財産については、清算価値保障額を大きくしたくないからといって再生債務者にとって不利な分割をしないようにしましょう。わざと自身の財産を毀損したとみなされ、毀損分の金額が清算価値保障額に上乗せされることになり兼ねません。
過払金については、再生手続開始決定時点で未回収のものがあれば計上します。しかし司法書士が介入している以上、存在を知っていながら回収せずに個人再生の申立てを行うというのは現実的ではありません。事前に回収してそれを個人再生の費用に充当した上で、申立を行うべきです。但し裁判所に報告する必要はあります。

裁判所により自由財産の取扱いが異なるので要注意

清算価値算出シートには、再生債務者が破産手続きを行った際に自由財産(配当に回されない)となる財産については記入する必要がありません。例えば20万円以下の現金などがそれにあたります。

かし、自由財産として清算価値算出シートに記入不要な財産の額については、裁判所により運用が異なります。例えば東京地裁においては、99万円までの現金は清算価値から控除される上に、さらにその他の項目の財産は個別に20万円以下の金額であれば清算価値保障から除外されるため清算価値算出シートに記入する必要はありません。しかし、千葉地裁においては99万円までの現金が控除される点は同じですが、それ以外の個別の財産は例え20万円以下の額であっても清算価値保障の計算に組み込まれるため、清算価値算出シートに記入しなければなりません。

このように個人再生の清算価値保障の考え方は裁判所により大きく異なりますので、事前によく確認しておきましょう。

まとめ

以上、個人再生における清算価値算出シートについて解説しました。

今回のポイント

【個人再生における清算価値算出シート】

1.清算価値算出シートはホームページからダウンロードできる

2.清算価値算出シートの各項目
①現金
②弁護士・司法書士預かり金
③預金・貯金
④退職金見込み額
⑤貸付金・売掛金等
⑥積立金等
⑦生命保険等解約払戻金
⑧有価証券
⑨自動車・バイク
⑩高価品・事業用動産等
⑪不動産
⑫その他(敷金・保証金、相続財産、過払金など)

3.裁判所管轄により自由財産の取扱いが異なるので注意

個人再生における清算価値算出シートは、初めて個人再生の申立業務を行う司法書士にとっては少々難解な業務になります。しかし、この記事を読んで基本を押さえておけばそこまで難しい業務でもありませんので、しっかりと学んでおきましょう。

清算価値算出シートは管轄裁判所によって運用が大きく異なります。特に自由財産との兼ね合いについてはしっかりと事前に調べておくことが大切です。確信が持てないことは再生委員に確認しながら進めていけば大きな失敗になることはないと思いますので、未経験の司法書士もぜひ個人再生に取り組んでみてください。

「司法書士事務所 債務整理研究会」のお知らせ

これから債務整理業務に取り組みたい司法書士の方へ~

司法書士の本松司法書士の本松

不安な司法書士の方は本松へぜひご相談ください。

私はこれまで、5032件の債務整理案件を受任してきました。
「すごいなー。でも債務整理事務所で基礎から教育されたからできるんでしょ?」
「債務整理の実務経験が乏しい自分には、難しそうだな。」
と、このように考える方が多いと思います。
しかし、まったく違います。
確かに私は債務整理事務所に在籍していましたが、ほとんど何も教えてもらえず、必死に独学で勉強しました(汗)。最初のうちは、

「個人再生?何だそれ?聞いたことないぞ。」

というレベルだったのです。そんな私でも何とかやっていくうちに5032件の債務整理案件を処理できるにまで成長したのです。 このサイトをご覧になっている司法書士のあなたは、当時の私より間違いなく知識があります。だから断言します。

あなたでも、債務整理案件は自信を持ってすぐにできるようになる!

しかし、私のように回り道せずに、なるべく効率的に学習して欲しいと思い、このように情報発信をしております。時間は有限です。限られた時間をなるべく有効的に使うことで、結果的にあなたの司法書士としてのステップアップや事務所経営の安定にも繋がるのです。

そこで司法書士が債務整理を学ぶ場として、「司法書士事務所 債務整理研究会」を立ち上げました。

これまで積極的に債務整理業務に取り組んで来なかった司法書士でも0から債務整理を学べる研究会です。共に学ぶ司法書士の仲間たちとの情報交換も可能なので、興味のある司法書士の方はぜひご参加ください。

皆様のご参加をお待ちしております。