
こんにちは。
これまで5032件の借金問題を解決してきた、ひまわり司法書士法人の本松です。
この記事では、自己破産の手続きにおいて偏頗弁済に該当する基準は何か?という点について解説します。
自己破産の手続き上、偏頗弁済があったと判断されると免責不許可事由に該当してしまいます。もっとも偏頗弁済とはいっても、全体の債務額と弁済額とのバランスや、なぜ偏頗弁済を行ってしまったかの事情等により評価は変わってきます。偏頗弁済があったから問答無用に免責不許可ということはないでしょうが、もともと同時廃止で処理できそうな案件だったとしても偏頗弁済の事実が認められると管財型事件になってしまう可能性が高くなってしまいます。
【自己破産の手続きにおいて偏頗弁済に該当する基準は何か?】
- 偏頗弁済とは何か?
- 自己破産で偏頗弁済となるのは「支払不能になった後の弁済」と「破産手続開始決定後」の弁済
- 偏頗弁済として否認される行為がある
- 偏頗弁済とはみなされない支払いもある

偏頗弁済と判断されると管財型事件になるのですか?

その可能性は高いです。自己破産手続きにおいて裁判所はお金の流れを重視します。偏頗弁済が認められると他の債権者にとって不公平になりますから、債権者の公平の原則が崩れてしまいます。全容解明のために管財人に詳しい調査を命じることになります。

管財型事件になるのは申立人がある程度の財産を有している場合だけだと思っていたのですが、そうとは限らないんですね。

財産がない場合でも、財産や免責に関する調査が必要だと裁判所が判断すると管財型事件になります。

「財産や免責に関する調査が必要」とはどのような場合ですか?

財産や免責に関する調査が必要だと判断されるのは、免責不許可事由に該当する可能性がある場合です。ギャンブルや浪費が原因の借入が多い場合や、財産隠しが疑われる場合などです。偏頗弁済も免責不許可事由に該当しますので、財産や免責に関する調査が必要だと判断され管財型事件になってしまう可能性が高まるのです。
偏頗弁済とは何か?
自己破産手続きにおける偏頗弁済とは、複数の債権者があるにも関わらず、特定の債権者にだけ弁済することを言います。
自己破産するにはすべての債権者を公平に扱わなければなりません。そのため支払いを止めたのであればすべての債権者に対して支払いを止める必要があります。一部の債権者にだけ支払をしてしまうと、他の債権者にとって不公平な扱いをすることになってしまうからです。

自己破産においては債権者はその属性に係わらず平等です。例えばカードローンの返済は止めたけど親族から借りたお金は返済するというのも、偏頗弁済になってしまいます。親族だろうが金融機関だろうが同じ債権者として公平に扱う必要があります。
自己破産で偏頗弁済となるのは「支払不能になった後の弁済」と「破産手続開始決定後の弁済」
自己破産で偏頗弁済となるのは次の弁済です。
- 支払不能になった後の弁済
- 破産手続開始決定後
それぞれ順に解説していきます。
支払不能になった後の弁済
支払不能になった後に一部の債権者にだけ弁済してしまうと偏頗弁済に該当してしまいます。自己破産をするためには支払不能状態にあることが前提となります。支払不能とは以下の状態を言います。
-
支払能力を欠いている。支払いができるだけの、財産・信用・労力・技能がない。
-
一般的かつ継続的に弁済が出来ないこと。失業、病気、給与ダウンなどで安定した継続的な支払ができない。

実務上では司法書士の介入も支払不能とみなされます。受任通知発送後はとにかくすべての債権者への弁済を止めるように依頼者に念を押しましょう。受任後に一部の債権者にだけ弁済してしまうと、本来であれば同時廃止で処理できたはずの案件が管財型になってしまう可能性が高まります。
破産手続開始決定後の弁済
破産手続開始決定後の弁済も偏頗弁済とみなされます。破産手続開始決定が出ているにも関わらず弁済を行うということは、裁判所から意図的に弁済していると疑われる可能性も高くなるためとても危険です。

少額であったり親族・友人からの借入であったりすると、悪気はなくてもつい弁済してしまう依頼者もいます。そうなると大問題になりますので、依頼者に念入りに説明しておきましょう。
偏頗弁済として否認される行為がある
偏頗弁済として否認されるケースは以下に該当する行為をした場合です。
・特定の債権者へ債務を返済する
・特定の債権者へ代物弁済する
・特定の債権者に対する担保権設定

債務の返済や代物弁済は理解できるのですが、担保権の設定も偏頗弁済とみなされるのですか?

抵当権や質権などの担保権を設定していると、他の債権者に先んじて債権回収を図ることが可能になりますよね。そのため担保権者に優先的な立場を供与したという考え方から偏頗弁済とみなされるのです。事件が管財型になってしまう可能性がとても高くなります。
自己破産における否認とは、本来であれば破産財団に組み込まれて債権者に対する配当に回されるはずだった財産を破産管財人が取り戻すことを指します。「否認権」と呼ばれます。
例えば特定の債権者に対する偏頗弁済があった場合、破産管財人の否認権行使によりその弁済は認められなくなります。そのため債権者は弁済金を破産管財人に返却する必要があるのです。偏頗弁済に限らず、財産を無償で贈与する、市場価値より安い価格で財産を売却してしまう行為なども否認権行使の対象となります。なお、偏頗弁済に対する否認権行使のことを「偏頗行為否認」と言います。
(破産債権者を害する行為の否認)
第百六十条 次に掲げる行為(担保の供与又は債務の消滅に関する行為を除く。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。引用元:破産法第160条(一部抜粋)
(特定の債権者に対する担保の供与等の否認)
第百六十二条 次に掲げる行為(既存の債務についてされた担保の供与又は債務の消滅に関する行為に限る。)は、破産手続開始後、破産財団のために否認することができる。
一 破産者が支払不能になった後又は破産手続開始の申立てがあった後にした行為。ただし、債権者が、その行為の当時、次のイ又はロに掲げる区分に応じ、それぞれ当該イ又はロに定める事実を知っていた場合に限る。
イ 当該行為が支払不能になった後にされたものである場合 支払不能であったこと又は支払の停止があったこと。
ロ 当該行為が破産手続開始の申立てがあった後にされたものである場合 破産手続開始の申立てがあったこと。引用元:破産法第162条(一部抜粋)
自己破産で偏頗弁済とはみなされない支払い
自己破産でも以下の支払いに関しては偏頗弁済としてみなされないため、支払いをしても問題ありません。
- 公租・公課(健康保険料、年金、固定資産税、住民税、自動車税など)
- 家賃、光熱費、通信料など
- 第三者(親族等)からの支払い
- 免責許可決定確定後の支払い
公租・公課(健康保険料、年金、固定資産税、住民税、自動車税など)
公租・公課は自己破産における非免責債権(支払義務が免除されない債権)であるため、支払いをしても問題ありません。

公租・公課の負債があると、債務者審尋や債権者集会において裁判官から「どうやって支払っていくつもりですか?」と確認されることが多いです。そのため事前に、滞納している公租・公課に支払いについて行政と協議しておいた方が裁判官への説明もしやすくなります。
家賃、光熱費、通信料など
生活を営んでいく上で欠かせない家賃、光熱費、通信料(携帯電話代、プロバイダ料金など)の支払は偏頗弁済となりません。自己破産の目的は破産者の生活再建です。そのため生活に必要な支出は柔軟に認められる傾向にあります。但し支出額が多いようだと家計の改善を求められることもありますので、あくまで常識的な範囲内で考えてください。
支払いをしても問題ないのはあくまで「携帯電話の使用料(通話料、通信料など)」であって「スマホ本体代金」ではありません。
最近はスマホ本体の代金を分割払いで支払うことが多くなってきました。その場合スマホ本体のローンを組んでいることになるので、原則的に本体代金については破産債権として申立てる必要があります。分割金の支払いを続けると偏頗弁済とみなされる可能性が出てきますので注意が必要です。

スマホ本体の分割払いは自己破産において悩ましい問題です。解決策としては中古等で安い端末を購入して格安SIMに切り替えるなどがありますが、なかなか決定打がないのが実情です。
第三者(親族等)からの支払い
破産者ではない第三者からの弁済は偏頗弁済とみなされません。偏頗弁済とみなされるのは破産者の弁済に限られるので、第三者の自発的な弁済を拘束する必要はないからです。
但し、生計を共にする同居家族からの弁済は要注意です。生計を共にしている家族が弁済すると、その弁済原資が誰の財産なのかという境界が曖昧になり、場合によっては破産者自身の財産が弁済原資とみなされる可能性もあるからです。
免責許可決定確定後の弁済
免責許可決定が確定しても債権が消滅するわけではなく、支払義務が消滅するに過ぎません。そのため免責許可決定の確定後に破産者が任意に弁済することは問題ありません。なお免責許可決定は、決定書の送達からおよそ1カ月経過しないと確定しないので、確定するまでは任意の弁済も控えましょう。

私は親族からの借入について免責後の弁済を依頼者にアドバイスすることもあります。但し依頼者が勘違いしないように「法的には支払義務はありません。それでも払いたければ免責許可決定確定後にどうぞ。」と伝えるようにしています。
まとめ
以上、自己破産の手続きにおいて偏頗弁済とみなされるのはいつから?という点について解説しました。
【自己破産の手続きにおいて偏頗弁済に該当する基準は何か?】
- 偏頗弁済とは何か?
- 自己破産で偏頗弁済となるのは「支払不能になった後の弁済」と「破産手続開始決定後」の弁済
- 偏頗弁済として否認される行為がある
- 自己破産で偏頗弁済とはみなされない支払いもある
自己破産手続きにおいて偏頗弁済が認められると、管財型事件になってしまう可能性が高くなります、特に本来であれば同時廃止型で処理できたはずの案件が管財型事件になってしまうと、依頼者に管財費用の負担が重くのしかかってきます。
親族からの借入がある場合などは要注意です。悪気はなくても依頼者がついやってしまう典型的な問題行動なので、そのようなことが起こらないように司法書士がしっかりと依頼者に説明しておくことが重要です。
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